デス・オーバチュア
第24話「銀髪の男と青銀色の幼女」




「別三日、即更刮目相待……といったところですか、文字通り」
ケセドは苦笑を浮かべながらそう言った。
彼女の左手には漆黒の槍が握られている。
「……どういう意味だ?」
タナトスは、魂殺鎌を構え、ケセドの動きを一瞬たりとも見逃さないように凝視していた。
「男子三日会わざれば、刮目して待て……なら意味が解りますか? 男の子は三日会わないでいるうちに成長しているものだから、敵対する時は油断をしないで待て……という格言です」
ケセドは、タナトスの成長を喜ぶかのように微笑を浮かべている。
「……私は女だっ!」
タナトスが仕掛けた。
一瞬でケセドとの間合いを詰めると、迷わず魂殺鎌を振り下ろす。
「確かに、なぜ現在の格言は男子に特定されているのかは、私も疑問ですね」
ケセドは槍で魂殺鎌の側面を叩き、軌道をずらし回避した。
「常に戦い続け、成長し続けなければならないのは、戦いを志す者なら男女関係ありませんからね」
さらに、ケセドは、魂殺鎌を叩きつけた勢いを殺さずに今度はタナトスに斬りつける。
タナトスはその一撃を辛うじて回避した。
だが、ケセドはかわされても槍を止めることなく、勢いをそのままに槍を回し、再度タナトスに斬りつける。
「くっ!」
槍はタナトスの法衣を浅く切り裂いた。
ケセドの槍は先程と同じように、勢いを止めずに、いや、さらに加速させてタナトスに襲いかかる。
「ちっ!」
タナトスは堪らず後方に跳び退る。
「甘いっ!」
漆黒の槍が突然伸びたかのように、タナトスの腹部に打ち込まれた。
タナトスは吹き飛び、洞窟の壁に叩きつけられる。
「安易に宙に逃れるものではありません。それと、相手の間合いを決めつけ油断するのもよくありませんね」
「くっ……」
タナトスは腹部を押さえながら立ち上がった。
「刃ではなく柄で打ちましたから、それほどダメージもないでしょう」
ケセドは漆黒の槍を地面に突き刺した。
「不思議なことに、以前お会いした時とは比べものにならない程、身体能力はさらに成長されたようですが、相変わらず技術がなっていませんね。なぜ、私の攻撃についていけなくなり、後方に逃れる羽目になったのか解りますか?」
「…………」
「私とあなたの攻撃速度にはそれ程差があるわけではありません……いえ、もしかしたら、あなたの方が速いかもしれないぐらいです。ですが、あなたは私より明らかに遅い……なぜだか解りますか?」
ケセドは突然、地面から槍を引き抜くと同時に、タナトスに斬りつける。
「くっ!?」
タナトスはその一撃は辛うじてかわした。
「そう一太刀目はかわせますね、ですが……」
ケセドは槍を回転させ、勢いを加速させて再度タナトスに斬りつける。
タナトスの左肩が浅く切り裂かれた。
さらに三撃目の槍がタナトスの首筋の直前でピタリと止まる。
「二撃目、三撃目と段々とかわせなくなっていきますね。それが、あなたの攻撃と私の攻撃の差……あなたの攻撃は、加速していく私の攻撃と違い、一撃ごとに必ず途切れるのですよ」
「ぐっ……」
「一撃の速度や威力がどれ程優れていようと、そこで途切れてしまうのなら、一撃で倒せなかった時は……もう、あなたの負けなのです」
ケセドは槍を自由自在に回転させながら言った。
「攻防の基本は『円』……相手を倒すまで決して途切れることはない。これは棒術の基礎にして真髄ですが、あらゆる武術に通じますので……覚えておくといいでしょう」
「……相変わらず嫌味な講義をする奴だ……だが、確かにお前の言うとおりだ!」
タナトスは一瞬でケセドとの間合いを詰めると、魂殺鎌を横に振るう。
ケセドは一歩後方に下がり、一撃を紙一重でかわした。
攻撃をかわされたタナトスは、大鎌の勢いのままに一回転して、そのまま二撃目を放つ。
「なっ?」
ケセドは背中をそらしてギリギリで二撃目を回避した。
「……こんな感じで良いのか?」
「……ええ、オーバーアクション過ぎますが、一撃目の勢いを殺さずに二撃目に生かすというのはそういうことです。後はいかにコンパクトにするか、緩急や変化をつけるかなどが課題ですね。さて、講義はここまでです」
ケセドは漆黒の槍をタナトスに向けて構える。
「『三度目』に期待する価値があなたにあるか試させてもらいます」
「……訳の分からないことを」
「魔槍ゲイボルグ、あなたの魂殺鎌には遠く及びませんが、そこそこ由緒正しい伝説の武器……この槍が魂殺鎌に耐えられる数度の打ち合いの間にあなたを屠らせていただきます」
「……やれるものなら、やってみろ!」
「参ります!」
タナトスとケセドは同時に相手に跳びかかった。


「千の矢に貫かれて散りなさい!」
ケセドの投擲した漆黒の槍の穂先から無数の矢尻が飛び出し、タナトスに降り注いだ。
「はあああっ!」
タナトスは構わずに矢尻の雨の中に飛び込む。
閃光一線。
二人は互いの横を通過し、地面に着地した。
タナトスの体には無数の矢尻が突き刺さっている。
「……馬鹿ですか、あなたは?」
「良く言われる……」
「急所に当たる最低限の矢尻だけを弾いて、後は全て喰らいながら私に一撃をくわえる……なんて馬鹿げた戦い方……」
ケセドは片膝をついた。
「もう少し効率の良い……利にかなった戦い方を学ぶことを……お勧めします……もっと自らの体を……大切に……」
ケセドの上半身と下半身がズレだす。
「悪いが時間がない。さっきの化物のような魔族のところに残してきたクロスが気になる」
タナトスは、体中に突き刺さった矢尻を抜く間も惜しみ、Dとクロスの居る場所に向かって駆けだした。



「…………ん?」
「あ、気がついたよ」
意識を取り戻したクロスが最初に見たのは初めて見る小さな女の子だった。
十歳にも満たないだろう幼い少女。
メイド服のようなデザインの青一色の洋服を着ていた。
少女の最大の特徴は、青とも銀ともつかない、不可思議な青銀色の髪である。
「月の光?」
少女の髪の輝きを見てクロスがなんとなく連想したものがそれだった。
「なかな的を射た表現だな」
冷ややかな男の声が答える。
その声で初めて、自分と少女以外に、もう一人この場に人が居ることにクロスは気づいた。
背の高い細身な黒いロングコートの男が洞窟の壁にもたれかかっている。
男は、クロスと同じ銀色の髪を短く切り揃え、ルーファスと同じアイスブルーの瞳をしていた。
「……えっと、誰、あなた達?」
「別に、ただの通りすがりだ」
男の声と態度には愛想の欠片もない。
「……通りすがりって……こんな所を……」
普通の人間には辿り着くのも困難なクリア国の秘境……そんな所を偶然通りかかる者が居るわけがなかった。
「ふん、じゃあ、お前と同じ目的で来て、もう帰るところだ……と言えば納得するか?」
男はシニカルな笑みを浮かべて答える。
「神柱石!?」
クロスは勢いよく立ち上がると、男の胸ぐらを掴んだ。
「もしかして、もうあなたが取っちゃったの!? ちょうだい! いや、せめて分けて! それとも売ってくれる!?」
クロスは勢いよくというか、混乱したまま捲し立てる。
「……落ち着け、馬鹿」
男は、胸ぐらを掴んでいるクロスの手を払った。
「外れだ」
「えっ?」
「外れだと言った。ここに神柱石は無い」
「……それを信じろというの?」
「別に信じてもらう必要など俺にはない。だが、お前は、神柱石を持っているかもしれないという理由で力ずくで俺を襲うのか?」
「うっ……」
クロスは言葉に詰まる。
そんなことをしたら自分は正義でないどころか、完全に悪だ。
「まあ、奥に行ってみるんだな。神柱石は無いが、何も無いわけではない」
男はそう言うと、洞窟の入り口の方に向かって歩き出す。
「あ、待ってよ〜」
青銀色の髪の少女は慌てて男の後を追った。
男が少女を待つようにゆっくり歩いていたためか、少女はすぐに男に追いつき、男のコートを掴む。
少女と男の身長差は激しく、少女は男の腰までの高さしかなかった。
「むう〜……」
なんかこの二人も普通じゃない雰囲気がする。
引き留めて、もう少し話をした方がいい気がした。
だが、今は洞窟の奥に消えた姉や神柱石のことが気になる。
「まあいいわ、縁があればまた会うでしょう」
もし、自分の敵だったのなら、敵になるのなら、嫌でもまた会うのだ。
それよりも、今は姉の安否と神柱石の有無の確認が最優先である。
クロスは洞窟の奥に向かって駆けだした。



上半身と下半身が綺麗に二つに分かれたケセドの亡骸が地面に転がっていた。
パチンと指を鳴らす音が響くと同時に、ケセドの亡骸は水と化し、地面に染み込んでいく。
「変わり身とはいえ、自分の亡骸を見るのはあまり気持ちの良いものではありませんね」
無傷のケセドが立っていた。
「技術が未熟な分はあの愚かともいえる闘志に免じて、一応合格にしてあげますか」
ケセドはそう言うと楽しげな微笑を浮かべる。
「さて、引き上げますか……それとも?」
「さっさと引き上げた方がいいんじゃないか? すぐにタナトスとクロスが二人仲良くここに戻ってくるしな」
ケセドに話しかけたのは金髪の青年ルーファスだった。
まるで初めからずっとそこに居たかのように自然にただずんでいる。
「なっ……」
ケセドは絶句した。
気配を感じさせずにそこに居たことに驚いたのではない。
その存在そのものに驚いたのだ。
「俺が介入すると逆に面倒臭くなりそうだったからな、タナトスが居なくなるまで待たせてもらった。まあ、お前ごときにタナトスが負けるわけがないしね」
ルーファスは意地の悪い笑みを浮かべる。
「…………」
「どうした、俺に何か言いたいんじゃないのか、フ……」
「あああああああああああああああああっ!」
ケセドは叫びと共に、ルーファスの心臓めがけて漆黒の槍を突きだした。
「やっぱり、そうなるか」
ルーファスの心臓に達するよりも速く、槍が輪切りにされて崩れ落ちる。
「スピードさえあれば、この玩具でも切り裂ける、その程度の槍か」
ルーファスの右手にはいつのまにか細身の両刃の剣が握られていた。
「あああっ!? あああああああああああああっ!」
「言葉を失う程の怒りと憎しみか……」
ケセドは両手を手刀にしてルーファスに斬りつけようとする。
「この俺自らの手で始末してもらえることを光栄に思って消えろ、光輝……」
ルーファスの光速の剣が、ケセドの手刀より後から発動し、先に決まろうとした瞬間、水色の火柱がルーファスとケセドの間に割って入った。
「ちっ……お前か」
「過去の女は、今の恋人の目にとまる前に片っ端から始末ですか? 酷い方ですね」
水色の炎と共に姿を現した長髪に黒衣の男コクマ・ラツィエルはケセドを抱き寄せる。
「……コ……コクマ?」
「ええ、あなたが大嫌いなコクマ・ラツィエルですよ」
コクマは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「女? 今お前が抱いているのはただの『物』だろう?」
ルーファスは見下すように鼻で笑う。
「だいたい過去の因縁はDだけで間に合ってるんだよ!」
ルーファスは細身の剣をコクマに向かって投げつけた。
コクマはあっさりと細身の剣を水色の剣で切り落とす。
「……は、離しなさい、コクマ! 私はあなたに借りを作るつもりは……んっ!?」
コクマは、喚き立てるケセドの口を右手で塞いだ。
「少し大人しくしてくださいね、ケセドさん、守ってあげますから」
コクマは優しい笑みにも、意地悪な笑みにも見える微妙な笑みを浮かべている。
「むぅっ! あむむにまもばれれ……」
「はいはい、あなたになんかに守られたくない……て言いたいんですね。お願いですから、少しだけ大人しくしててくださいね、話がまとまりませんから」
コクマは子供をあやすようにケセドに言うと、ルーファスに向き直った。
「なんだ? 随分、それが気に入ってるみたいだな?」
「ええ、あなたにはいらない物のようですから、私が貰っても何の問題もないでしょう?」
「好きにしろ。その代わり、俺の目につくところに出させるな、目障りだ。次ぎに目についたら遠慮なく壊す。それが大切ならどこかに囲って、誰の目にも触れさせるな」
「解りました、できるだけ気をつけましょう。では、これで失礼させていただきます」
コクマが水色の剣を振るうと、水色の炎がコクマとケセドを包み込む。
次の瞬間、炎が初めから存在していなかったのかのように綺麗に消えさると、コクマとケセドの姿も消え去っていた。
「遍在の女神の力でクリアでも転移は自由自在ってわけか」
遍在、あまねく存在すること、どこにでも存在すること。
それゆえに、遍在の女神であるトゥルーフレイムはどこにだろうと瞬時に出現することができるのだ。
「それにしても……どいつもこいつも面倒臭せぇ……」
ルーファスは吐き捨てるように呟く。
なぜ、ここまで過去の因果がいくつもつきまとうのか?
タナトスに知られる前に、タナトスに類が及ぶ前に全て片づけなければならない。
「ちっ……ホントに面倒臭せぇ……」
とりあえず、今ルーファスのすべきことは、もうすぐクロスを連れて戻ってくるであろうタナトスを、自然に迎えることだった。

















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一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。



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